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2018 January - 疑うことなき先住民

 パイプラインやLNGプラントを建設しようと計画すると、その土地に住み、工事や施設により影響を受ける人たち、そして環境を守ろうとする人たちから反対の声が上がることがよくあります。皆さんも「先住民がプロジェクトに反対している」というような報道を見たことがあるのではないでしょうか?彼らは異分子という印象を持たれてしまい、一般のカナダ人は必ずしも先住民に親近感を抱いていないようです。  彼らはカナダでヨーロッパ人が入植する前からこの土地に暮らしていた人々なのです。かつてはインディアンとかエスキモーという呼び方をしていましたので、そうした言い方を覚えている人も多いことでしょう。それは差別語である、という配慮から外部の人たちは彼らを総称してNativeと呼んだり、先住民自身はFirst Nationと名乗ったりしています。
 その他にAborigineという言い方もしましたが、何だか学術用語のようですし、無機質な印象をもつせいか、先住民の皆さんには余り好まれません。それからトルドー政権になってからはIndigenousという表現が多く使われるようになりました。これは、まだ馴染みが薄いようです。ここでは「先住民」という表現で話しを続けさせてください。
 さて、先住民の土地で何かプロジェクトをやろうとするとき、事業者は先住民の皆さんから理解を得るために説明や相談をすることを欠かすことはできません。実際に彼らと会って話しをしてみると、アルバータ州とBC州では先住民でも全く違うものだ、と感じることがあります。それは石油ガス産業のようなビジネスに馴染んでいるか、そして連邦政府との間でTreatyという取り決めを結んでいるか、という違いがそれぞれの部族の個性になって現れているようです。BC州のロッキー山脈の西側に居住する先住民の多くが、カナダの他の地域の先住民と違ってTreatyを連邦政府と結んでいないので、土地や資源などに対する権利をカナダに譲渡していない、という主張をしているのです。
 「先住民」とひとくくりに言いますが、部族により話す言葉も伝統的衣装の模様や素材などが違います。言葉が違えば意思疎通は難しいのですが、お互いに交易していた歴史を彼らの生活の中に見ることができます。
 ある平原の先住民は部族で集会をするとき、会の始まりで祈祷を行ないます。その場の精霊と集まった人々の魂を清めるために草を燃やして煙を立て、身体に振り掛けます。その折に使う火皿がアワビの殻でした。一方で沿岸部に住むある部族は平原で採取された野草を薬や、お香として使っています。
 つまり彼らは大昔から言葉は異なっていても隣人として交易して繋がっており、それが日々の生活の中で根づいているのです。平原の部族の祈祷師がアワビの殻を伝統的な祭具のひとつとして代々大切に守ってきたと言っていました。「海もないのにどうして?」と思わず言いたくなりましたが、アワビの殻が自分達の文化の一部だと説明してくれました。
 「先に住んでいた人」の彼らがどれくらい土着していたか、という話しを先住民の口から聞かされて驚いたエピソードがあります。  BC州北西部の沿岸部の島から4つの頭蓋骨が発掘されたのですが、それはそれぞれ2500年前から6000年前のものでした。その近くで居住する部族の先住民60人からDNAサンプルを取得し、発掘された人骨の歯から採取したDNAと比較調査したのです。
 この部族の3人が5000年前の頭蓋骨とDNAが一致したのです。つまり直系の子孫が5000年の間、この場所で暮らしてきたということです。そして頭蓋骨の3つは現在生きている一人の人間と関係していると確認されています。集落で同一部族として暮らしていたことが分かりました。そして発掘された中では最古のものである、6000年前の頭蓋骨はアラスカで発掘された10300年前の人骨とDNAが一致していました。先住民は氷河期にアジアから北米に海峡を歩いて渡ってきたと言われていますが、この6000年前に生きていた人はアラスカからBC州まで旅をしていたのです。そして更に、5500年前の女性、2500年前の女性の人骨から採集したサンプルが現在生きている先住民の一人の女性のミトコンドリアと一致したのです。ここで200世代も暮らしていたのですね。
 研究によると北米の先住民の95%のミトコンドリアをたどると、18000~21000年前に生きていた6人の女性に行き着くとされています。彼女達はFounding mothersとして先住民に知られています。実は北米の先住民の多くは16世紀以降のヨーロッパからの入植者との混血が進み、DNAによる調査でも交じり合いがみられて過去への追跡が難しいのです。このBC州北西部の沿岸に住んでいる小さな部族の人たちは何千年もの間、そこから動くことなく、世代をつないできたことを、彼らの伝承だけでなくDNAが教えてくれたのです。
 この話しを聞かせてくれた部族の酋長は自分を指し、誇らしげにFirst Nationだと呼んでいました。本当に、疑うことなき先住民です。これからは彼らに対し「何でもかんでも反対している」と反発しないで、先住民の言葉を頭を下げて聞かなければいけない、と思わされた会話でした。

風谷護
カナダ在住は20年を超えるエネルギー産業界のインサイダー。
趣味は読書とワイン。


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