JAPANとALBERTAから、JAPANAB(じゃぱなび)と名付けられた無料タウン情報誌。
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季刊誌「Japanab」は、2022年1月発行の「Japanab vol.39 2022 January」より、1月と7月の年2回刊誌に刊行サイクルを変更いたしました。
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2022 January - コロナ禍で経済は どう変わったのか

 コロナウイルス感染拡大に警戒しながらの生活も長くなりました。ワクチン接種や治療薬開発が進んでいることでトンネルの先に明るい出口が見えてきたような気になるものです。感染拡大を抑制するために人々は活動制限に耐えてきました。私たちの我慢する生活は経済という規模でみれば、物資や燃料の需要を減らす影響がありました。
 少しずつコロナ関連の規制が緩和され、生活上の不便さが減り、外出や旅行にも出かけられるようになってきました。しかしそのタイミングに合わせるようにお店の品揃えが減り、ものの値段が上がっているように感じます。

物価上昇と品薄のダブルパンチ
 もし皆さんがお買い物でそうした印象を抱いたとすれば、それは間違いではありません。北米ではインフレのリスクが高まっていると言われています。需要に供給が追い付かないと品薄になり、モノの値段は上がるというのがインフレの基礎です。コロナを克服する新しい時代へと私たちが今移ろうとする中、人々の生活は少しずつ元に戻ろうとしています。そのため需要が増えつつあるのですが、製造や生産の現場、そして流通段階では人出不足で供給が追い付かない事態になっているのです。
 景気回復に伴い求人は急増しているのに、働く人が職場に戻ってこないという人手不足の問題があちこちで生じています。職場に復帰しない人が多いという背景には、通勤や職場で人と接触してコロナに感染することを警戒する人がまだ多いことがあります。リモートワークが可能な職場に希望者が集まる一方で、従来型の勤務条件のままの職場、例えばトラックの運転手などには応募者が集まらないという状況です。
 2020年の夏にかけて、木材の値段が高騰したことをご存じでしょうか?人々が家で過ごす時間が多くなり、リフォーム件数が急増し、材木の需要が増すと同時に、森林伐採、木材の運搬そして製材などの現場で人出不足となり、材木の供給が停滞して需要に追い付かなかったのです。建築現場に保管していた材木が盗まれる事件が多発して話題になっていました。あれはコロナ感染拡大が物価に影響をもたらす一例でした。
 カリフォルニア州ロサンジェルスは西海岸の主要な港湾ですが、コンテナトラック運転手の不足で、貨物船が港で荷揚げできずに停滞しました。港湾内には荷下ろしの順番待ちをする船が多数停泊。その影響で商品が小売店に到着するが遅れ、品薄を引き起こしました。それだけでなくコンテナや運搬船の動きを停滞させたことにより物流コスト全般が上昇しました。それが物価を上昇させたのです。

ガソリン価格はなぜ高い?
 木材にしてもコンテナにしても、我々の日常生活の向こう側で起こっている現象です。そんなことがあったのかと余り気が付かなかったかもしれません。ではガソリンの値段はどうでしょうか?最近、上がったという実感はありませんか?街道沿いのスタンドに掲示されているレギュラーガソリンの値段が$1.35/L辺りから動かないような気がして、筆者は注目しています。インフレの懸念や物価の上昇はコロナ禍の影響だと整理してしまうのは面白い話なのですが、ガソリン価格の上昇は少し違った事情があるようです。
 我々ドライバーがガソリンスタンドで給油する際に目撃するガソリンの値段には、小売店の適正利潤、ガソリンを小売店まで搬送する費用、各種の税金、製油所でガソリンを製造するコスト、そして材料となる原油コストが構成要素として含まれています。これらの中で最も変動が激しいのは材料費、即ち原油価格です。スタンドの利潤は競合他店と激しい競争に晒されていますし、製油所の製造コストは各社が企業努力をしているので、どの施設でも大きく変わるものではありません。政府はGSTや炭素税の税率を変えることは勿論ありますが、毎月のように動くものではありません。
 アルバータ州にはエドモントン近郊に製油所が多く立地していますのでガソリンに関して言えば地産地消の産品ということになります。例えば12月上旬エドモントン市内で見られたガソリン小売価格は安値は$1.14/L、高値では$1.38/Lと幅がありました。この時の製油所がレギュラーガソリンを小売店に卸す値段は$0.73/Lでした。この地に製油所を持つ業界大手のShellやSuncorはお互いの仕切値に注意を払いつつ提示する卸価格を決めていますので、この段階では値段に大きな差は生じません。これに連邦税が$0.10/L、アルバータ州税が$0.13/L、炭素税が$0.0884/L加算されます。そしてGSTがかかるのでガソリンスタンドが製油所から仕入れる際の値段は$1.10/Lとなります。(ご存じでしたか?33%が税金関係で占められていることを。)これに小売店までの搬送費やスタンド運営のコストや適正利潤が上乗せされて、ドライバーが目にする看板に提示される価格が決まってくるという訳です。利幅を調整したり、コンビニを併設して副収入を得ている店は少し安い小売価格を提供できるという図式です。

ガソリン原材料の原油価格も高騰
 これらのコスト要素の中でガソリンの原料となる原油価格が大きく変動(値上がり)しています。北米の原油はニューヨークの商品取引所で扱われるWTIという油種が代表的なものであり、様々な種類の原油もWTIの値段が影響を及ぼしています。エドモントンで取引されるアルバータ産の原油もWTI価格の〇%というように値段を示して交渉しているので、価格は連動しているのです。さてこのWTI原油の値段ですが、2020年11月は1バレルにつき41.10米ドルだったものが、2021年11月は79.18米ドルでした。原油価格は2021年に入ってから徐々に値を上げてきたのですが、1年で倍近いものになりました。上述の製油所からの卸値$0.73/Lには原料調達費の他に製油所の製造コストが含まれていますが、原油の部分は1年で大きく膨らんでしまったのです。ガソリン価格の値上がりの原因は原材料費の値上がりだったのです。
 では原油価格はどうして上がったのでしょう?コロナ感染拡大が懸念されて経済活動が停滞していました。そのため燃料需要が減り、エネルギー価格全般が低迷していました。石油会社は売り上げが減りましたから、開発費も含めて支出を減らして、厳しい経営環境を乗り切ってきました。経済活動が回復に向かい、燃料需要が戻ってきましたので、いま需給がひっ迫して原油の値段がまた上がっているのです。日本政府は産油国に原油の増産を働きかけて、供給を増やして値上がりを抑える努力をしています。しかし頼まれたからと言って原油の生産量を大きく増やすことは難しものです。井戸を掘って、地上の配管でつないで新たに生産するのにどれくらいの時間がかかるか想像がつくでしょうか?1年近い時間が必要です。ですから原油の生産量を増やしてくださいと頼まれてから、豊富に供給されるようになり、ガソリンの原料費が一段落して小売価格が下がるまで、相当な時間(下手すれば数年間)がかかるという話なのです。
 コロナ関連の規制緩和が進んで人流が回復したらガソリン需要は増えます。しかし原油の供給が増えるまでに時間がかかりますから、ガソリンの値段が元の水準に落ち着くまで、もう暫くの我慢が必要です。桃栗三年柿八年と言うように、ガソリンもそんな時間がかかって今の値段があるのです。


風谷護
カナダ在住は20年を超えるエネルギー産業界のインサイダー。趣味は読書とワイン。





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