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2017 April - 炭素税の影響を大解剖

 アルバータ州では今年1月1日から、環境税の一種の『炭素税』(通称carbon tax、正式にはcarbon levy)がお目見えした。進歩保守党前政権下では考えられなかった措置だが、炭素税は環境への取り組みに前向きな政府によって世界中で導入が進められている。反対派は経済活動や競争力が低下する、消費者や産業界への負担が大きいなど導入にあたって大騒ぎするのが常だが、一般市民としても心配はつきものだ。今号では導入から数ヶ月が経ったアルバータ州の炭素税について、おじさんが切り込んでみよう。

炭素税ってなに?
 この場合の「炭素」とは地球温暖化を引き起こす温室効果ガスのこと。つまり炭素税はエネルギーを燃焼する際に排出される温室効果ガスに対して課される税で、アルバータではガソリン、天然ガス、ディーゼル、プロパンなどが課税対象だ。電力には課税なし。税率は排出される温室効果ガス1トンにつき2017年は$20、翌年は$30と聞いてもピンとこないものだが、実生活で使用する燃料の価格が一体いくら値上がりしたのかは表1をご参照。

表1 炭素税額(燃料別)
燃料 2017年($20/トン) 2018年($30/トン)
ガソリン +4.49¢/L +2.24¢/L
天然ガス +1.011$/ギガジュール +0.506$/ギガジュール
ディーゼル +5.35¢/L +2.68¢/L
プロパン +3.08¢/L +1.54¢/L
注:2017年の税額は課税前からの増額量、2018年の税額は2017年からの増額量を表記しています。


 なおアルバータで昨年11月には1Lあたり80セント台だったガソリン価格が1月初旬に$1.10台に急騰したため、これが炭素税の脅威かと思った人も多いかもしれないが、2月には90セント台に戻っていることから見ても、新年のガソリン価格急騰には他の要因が関係していたと言えるだろう。ちなみに炭素税による燃料値上がりは、生産や運搬過程のコスト増加という間接的な影響も様々な物品の値段に及ぼしている。
 身近な例を挙げると、カルガリーに住むおじさんのエンマックス公共料金請求書には1月から天然ガスの部分に「carbon levy」という項目が出現し、約$5が追加されていた。暖房で天然ガス使用量が増える冬でこれくらいなら、うむ、なんとかなるだろう。州政府の試算では、平均的な4人家族家庭の天然ガス料金は月額約$11増加するとのことだが、皆さんは気付いただろうか?
 さて炭素税というと物品・サービスの値上がりに注目してしまいがちだが、そもそもの目的は温室効果ガスを削減して地球温暖化を食い止めること。値段が高くなると買う量を減らしたり、使用量を見直したりする消費者心理を利用した措置で、また生産者側もコスト削減のために、より温室効果ガス排出量の少ない生産方法や省エネ措置を探るといった効果が期待される。エネルギーは暮らしになくてはならないものだが、それをどれだけ使用するかは消費者個人次第。すぐに車の運転量を減らすことはできないかもしれないが、次に買い換える時はエコカーにしようとか、家を買い替える時には職場や学校の近くにしようとか、省エネ家電に切り替えるとか中・長期的な変化が皆さんの生活の中に見られるかもしれない。


リベートがあるって聞いたけど?
 ところが理想だけでは生きていけないのが政治の世界。値段を上げてエネルギー消費量を抑えようと言いながらも、州政府は低・中所得者向けのリベート(補助金制度)を設けている。すでに生活に困っている州民の炭素税負担を軽減するのには賛成だが、州民10人中6人にリベートが支給されると州政府が声高に宣伝しているところからして、支持基盤の低・中所得者層の不満を和らげようという魂胆が見え見えだ。さらに1月に入ってすぐにリベートの小切手が届いた(もしくは口座入金があった)という人も多いようで準備周到。政権初獲得で不慣れなはずのNDPもなかなか政治的な機転が利くものであるが、あまりにも幅広いリベート措置はエネルギー消費量を減らす効果を薄めてしまうのではないかと心配になる。
 なおリベートには申請の必要がない。2015・2016両年の所得税申告に記載された年間所得額をベースに、$95,000以下の家庭には年間最大で$420、$47,500以下の個人には$200が支給され(炭素税が増加する2018年度にはリベートもさらに増加)、炭素税を完全に補う額になっている。支給額やタイミングに関するさらなる詳細はアルバータ州政府のウェブサイトへ。


経済活動に悪影響は出ないの?
 特に不況の今、この増税措置が消費者の購入意欲や経済成長の低下を招くのではないかというのが最大の懸念材料だ。前者についてはリベートで対応するという形だが、経済成長への影響についてはアルバータに先立って炭素税を導入している他地域の状況を見てみよう。導入前後の実質GDP(国内総生産)と二酸化炭素排出量を比べた今年1月の日本の環境省の資料によると、世界の主な炭素税導入国であるフィンランド(1990年導入)、スウェーデン(1991)、デンマーク(1992)、スイス(2008)アイルランド(2010)、カナダ・ブリティッシュコロンビア州(2008)の各地において炭素税導入後のGDP成長と二酸化炭素排出削減の両立が確認されている。つまり経済成長を鈍化するという悪影響は見られていないのだ。
 ただ一口に炭素税導入といっても税率、税収の使い道(所得・法人税減税、環境技術開発資金、グリーン経済・インフラへの移行資金、一般会計など)、リベートの有無などは各地で様々なので、アルバータの選んだ制度が同じ効果をもたらすかはこれからの経過を見ていかないとわからない。しかしながら導入から3ヶ月間で州民の生活の質が大きく低下した気配はなく、他地域での結果も合わせて見ると、「経済を取るか環境を取るかの二者選択」という環境政策導入につきものの悲観論を打ち負かす頼もしい成果と言えよう。

黒澤森雄
カナダ政治オタク歴20年。左に傾いているので要注意。ご意見・感想はmoriokurosawa@gmail.comまで。




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