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2019 July - エドモントン発、世界へ 医学博士 館野 透

エドモントン発、世界へ
アルバータ大学で脳下垂体腫瘍の新規治療法確立に取り組む医学博士
館野 透

 アルバータ州では日本からの移住者が増え、いろんな専門分野で日本語での相談ができるようになりました。しかしながら、ジャパナビに日本人の臨床医がいるという情報は届いていませんでした。それがとうとう見つけました、日本人のお医者さん!
 館野透さんは、アルバータ大学に勤務する医学博士で専門は内分泌代謝学。あらゆるホルモンの司令塔である脳下垂体(以下、下垂体)に発生する腫瘍に対する治療法の研究に取り組む館野先生は、アルバータ大学病院で専門医として診察も行います。ホルモンの専門医なので、ファミリードクターではありませんが、日本人として心強い存在であることは間違いありません。館野さんの幼少期から現在までの変遷をエドモントンで伺ってきました。


今しかできない勉強は、今やらなきゃもったいない
 小さい頃は塾に行かず、双子の兄といつも遊んでいました。少しピアノを習ったり、カブスカウトをやったり、のんびり過ごしていました。高校に入ってはじめて、テストの前にみんな勉強するのだと気が付き、勉強するようになりました。苦手な科目があることで、自分のキャリアが狭まってしまうことも嫌でしたし、もし大学で文系に行ったら数学などを、理系に行ったら歴史などを学ぶ機会は一生で今が最後かもしれないと思い、全科目に力を入れました。
 高校3年生の時に、父親が出張先でフグにあたって倒れ意識不明になりました。幸い回復したのですが、その時単純に「人を助けたい」という気持ちがこみあげ、医者になる決意をしました。「仕事を通して社会に貢献」だと常々両親が言っていたからかもしれません。大学ではテニス部に入り、かなり没頭しました。仲間と共に練習に励み、試合に参加したことは、医局に入る前準備に申し分ないトレーニングであっただけでなく、大切な思い出です。
 医学部卒業後の進路は、「切って治すより、診断で早く見つけて切らないで治したい。薬で治せるほうが良いのではないか。」と思い、内科に決めました。研修医時代の2年間は、母校の東京医科歯科大学に1年、翌年は武蔵野赤十字病院で救命救急や内科を中心にまわりました。研修医を終え、3年目からは内科の中でも内分泌系の疾患を専門に診断・治療する内分泌代謝科へ進みました。ホルモン関係の病気はまだ解明されていない事が多かったり、治療法も限られていたりするので、それを研究したいと母校の大学院に進みました。


研究と診療の両方を追求
 大学院を卒業後、下垂体腫瘍の研究をさらに進めたいと考え、北米、ヨーロッパの研究室に、博士研究員(Postdoctoral Researcher)として雇ってもらえないかと尋ねました。下垂体腫瘍の基礎研究と臨床研究を行っているトロント大学の研究室で働けるようになりました。自分の採用だけでなく、同じ医局の後輩だった医師の妻も幸い同じ研究室で働けるように配慮してもらえました。カナダ、中国、メキシコ、ハンガリー、フランス、コスタリカ、トルコ、イタリアなど、世界各国からの研究者・医師と働き、充実した研究生活でした。
 研究の傍ら下垂体腫瘍に関する診療知識とスキルを向上させる必要性を感じたため、トロント大学の上司の監督下で医療行為ができるクリニカルフェローの資格を取りました。これは、日本の専門医の研修が終了しており、患者やスタッフと英語でコミュニケーションが取れることが認められれば申請できる医師免許証です。そして、下垂体腫瘍を中心とした内分泌腫瘍分野での専門研修を行いました。もっとカナダで研究と診療の両方が続けられ、学生や研修医の教育も行えるポジションがないかと探したところ、アルバータ大学が下垂体専門の教授の退官に伴って診療と研究の両方をできる後継者を探していたので、幸運にも私にお声がかかりました。
 2016年の夏にアルバータ大学と契約が決まり、半年間研究室の準備をし、2017年2月正式に内分泌代謝科の助教授として就任しました。現在はアカデミックライセンスという特殊な医師免許を有していて、アルバータ大学でのポジションがある限り、大学とその関連の施設なら、カナダで免許をとった医師と同じように、専門医として診察ができます。ただ、開業できるような免許ではありません。私にはとても尊敬できる研究と臨床の二人の教授がメンターとしてついてくれていて、他に研究者、大学院生、技術者などの優秀なスタッフにも恵まれています。また妻が公私ともに支えてくれるのは、感謝の一言に尽きますね。下垂体疾患の診療と研究に携わっている医師は、他のメジャーな病気に比べると数は少ないです。次世代の教育もしつつ、カナダ人だけではなく日本から下垂体の研究をしたい医師や研究者を呼び、成果を日本に還元し、交流したいと思っています。


エドモントン発の治療法を、世界へ
 人間が生まれてから死ぬまで、無症状のものを含めると6人中1人は下垂体に腫瘍を持っていると言われています。症状が出るタイプの場合は、特定のホルモンが過剰に分泌されることで起こる症状(例えば巨人症など)や、腫瘍が視神経を圧迫することで起きる視野障害などの症状があります。診断方法の改良などにより、 少しずつ診断される数が増えています。  治療が必要な場合、第一選択は手術療法ですが、手術でとりきれない場合や手術が難しい場合、薬物による治療が行われます。私の研究室では現在、これまでとは全く異なるアプローチで、下垂体腫瘍の増殖を抑えるだけでなく、同時に腫瘍からの過剰なホルモンの産生を抑える方法を開発中です。将来的には、下垂体腫瘍の新療法として世界標準となるような画期的な治療方法をここエドモントンで確立したいと思い、日々研究をしています。

アルバータ州の日本人社会のために
 エドモントンには、つながりの強い日本人コミュニティーがあり、自然が豊かなので家族を育むのに素晴らしい街です。長くここで仕事ができたら良いですね。私は内分泌科医ですので、下垂体腫瘍だけでなく、甲状腺ホルモンの分泌異常や月経不順などの患者さんをファミリードクターからの紹介を経て診察しています。  先日エドモントン日本文化協会(EJCA)からお声をかけていただき、糖尿病、骨粗鬆症などの医療セミナーの講演を行う機会がありました。これからもエドモントンを中心にアルバータ州の日本人社会に貢献していけたらと思っています。

館野 透(たての・とおる)
1973年東京都文京区生まれ。
国立大学法人東京医科歯科大学卒業後、同大学病院と武蔵野赤十字病院での研修期間を経て、母校の大学院で博士号を取得。また、内科、内分泌代謝科、糖尿病の各専門医を取得した後、東京医科歯科大学の内分泌内科に臨床・研究医として勤務。2008年にトロント大学に博士研究員として採用され渡加。2011年には日本臨床内分泌病理学会の第15回学術総会最優秀賞を受賞。2017年からアルバータ大学に内分泌学科の助教授として勤務。内分泌代謝科専門医として患者を診察する傍ら、自身の研究室で下垂体腫瘍に対する新しい治療法の研究に取り組んでいる。子が宝と公言する一男一女の父。





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