カルガリーはもうすぐスタンピードのお祭り騒ぎになりますが、スタンピードと言えば至る所で振舞われるパンケーキの朝食。今号はパンケーキとメープルシロップについて格好の話題を提供したいと思います。
日本戦後の贅沢品ホットケーキ
日本では大正時代にパンケーキは既に紹介されていましたが、主にレストランなどで提供されるよそいきの料理でした。戦後にパンケーキを作る粉が製品化されて家庭に普及。温かいものだから「ホットケーキ」というネーミングで売り出されたのが1950年代後半のことです。その当時、ホットケーキといえばお母さんが作ってくれるおやつの定番であっただけでなく、子供たちが初めて作る「料理」として親しまれていました。焼きすぎて焦がしたり、上手く裏返せなかったりした記憶はおやつの楽しい思い出となりました。
その頃、子供たちは大福(30円)、コロッケ(7円)などをおやつとして食べていました。買い物にでかけるお母さん目線で眺めれば、化粧石鹸(30円)、ナイロンストッキング(400円)が商店街に並んでいます。その中で、大奮発を覚悟してひと箱180円のホットケーキミックスの箱を手に取る、という昭和の生活が見えてきます。
ホットケーキとメープルシロップは切っても切れない仲です。最初に売り出された商品にはメープルシロップが付属していました。それは本物の味で贅沢なものという評判を高めてくれたものの、値段が高過ぎるという意見が多く、数年後にはメープルシロップを外して100円に値下げした廉価版が売り出されました。その後、粉末をお湯で溶いてメープルシロップにするとか、トウモロコシを原料とした「ケーキシロップ」という安価な類似品をつけて売るという商法に転換し、それが今日にも続いています。このようにメープルシロップをたっぷりかけてホットケーキを食べるのは日本では贅沢なことで、本物は「高嶺の花」の憧れとなっています。
メープルシロップの隠された秘密
実はそのメープルシロップの背景にあるシンジケートが存在しているのです。原油やダイヤモンドの生産や流通にシンジケートが関わり価格をコントロールしていることは知られていますが、メープルシロップにも似たような世界が存在するのです。
世界で流通するメープルシロップの約70%は、カナダのケベック州で生産されています。このメープルシロップの流通は厳しくコントロールされていて、生産者は自分のカエデ林で採取したメープルシロップを独自に販売することができません。「ケベック・メープルシロップ生産者連合」という組織に引き渡さなければならないのです。
農産物の収穫は天候に左右され易いものですが、メープルシロップも冬の終わりに温かい日中の気温と凍えるような夜の寒さという組み合わせが完璧に揃わなければ収穫できません。そうした不安定な状況から生産者を保護するために1960年代にこの団体が生まれました。その設立趣旨には納得できるのですが、1990年代になるとこの団体の役割はメープルシロップの販売を統制して値段設定そして輸出をコントロールする強力なシンジケートへ変貌しました。
このシンジケートには7000を超える生産者が所属しており、彼らから集めたメープルシロップを集中管理しています。製品が大量に出回ることで値段が下がらないように流通量を調整し、余剰分は石油顔負けの「国際戦略備蓄(Global Strategic Reserve)」という名の下、ケベック州のある小さな町の目立たない倉庫に保管されています。その倉庫にはドラム缶が100万本以上も山積みになっています。ドラム缶1本のメープルシロップは時価1,650加ドル(原油がドラム缶一杯で約90加ドルですから、その約18倍の値段)! 過去に何度か備蓄倉庫に盗賊が侵入して話題になりましたが、2012年にも180万加ドル相当分のメープルシロップが盗まれています。そんなことからか、メープルシロップのドラム缶は内容物を表示せず無記名の真っ白な外観をしていて、備蓄倉庫の所在地は秘密で建物も目立たないように工夫されているという徹底した機密保持がされているそうです。
スタンピードでパンケーキにメープルシロップをたっぷりかけて食べる幸せを実感するとき、そして陳列棚に手を伸ばして日本へのお土産として買うとき、そんなシンジケートのことも想像してみてください。
風谷護
日本戦後の贅沢品ホットケーキ
日本では大正時代にパンケーキは既に紹介されていましたが、主にレストランなどで提供されるよそいきの料理でした。戦後にパンケーキを作る粉が製品化されて家庭に普及。温かいものだから「ホットケーキ」というネーミングで売り出されたのが1950年代後半のことです。その当時、ホットケーキといえばお母さんが作ってくれるおやつの定番であっただけでなく、子供たちが初めて作る「料理」として親しまれていました。焼きすぎて焦がしたり、上手く裏返せなかったりした記憶はおやつの楽しい思い出となりました。
その頃、子供たちは大福(30円)、コロッケ(7円)などをおやつとして食べていました。買い物にでかけるお母さん目線で眺めれば、化粧石鹸(30円)、ナイロンストッキング(400円)が商店街に並んでいます。その中で、大奮発を覚悟してひと箱180円のホットケーキミックスの箱を手に取る、という昭和の生活が見えてきます。
ホットケーキとメープルシロップは切っても切れない仲です。最初に売り出された商品にはメープルシロップが付属していました。それは本物の味で贅沢なものという評判を高めてくれたものの、値段が高過ぎるという意見が多く、数年後にはメープルシロップを外して100円に値下げした廉価版が売り出されました。その後、粉末をお湯で溶いてメープルシロップにするとか、トウモロコシを原料とした「ケーキシロップ」という安価な類似品をつけて売るという商法に転換し、それが今日にも続いています。このようにメープルシロップをたっぷりかけてホットケーキを食べるのは日本では贅沢なことで、本物は「高嶺の花」の憧れとなっています。
メープルシロップの隠された秘密
実はそのメープルシロップの背景にあるシンジケートが存在しているのです。原油やダイヤモンドの生産や流通にシンジケートが関わり価格をコントロールしていることは知られていますが、メープルシロップにも似たような世界が存在するのです。
世界で流通するメープルシロップの約70%は、カナダのケベック州で生産されています。このメープルシロップの流通は厳しくコントロールされていて、生産者は自分のカエデ林で採取したメープルシロップを独自に販売することができません。「ケベック・メープルシロップ生産者連合」という組織に引き渡さなければならないのです。
農産物の収穫は天候に左右され易いものですが、メープルシロップも冬の終わりに温かい日中の気温と凍えるような夜の寒さという組み合わせが完璧に揃わなければ収穫できません。そうした不安定な状況から生産者を保護するために1960年代にこの団体が生まれました。その設立趣旨には納得できるのですが、1990年代になるとこの団体の役割はメープルシロップの販売を統制して値段設定そして輸出をコントロールする強力なシンジケートへ変貌しました。
このシンジケートには7000を超える生産者が所属しており、彼らから集めたメープルシロップを集中管理しています。製品が大量に出回ることで値段が下がらないように流通量を調整し、余剰分は石油顔負けの「国際戦略備蓄(Global Strategic Reserve)」という名の下、ケベック州のある小さな町の目立たない倉庫に保管されています。その倉庫にはドラム缶が100万本以上も山積みになっています。ドラム缶1本のメープルシロップは時価1,650加ドル(原油がドラム缶一杯で約90加ドルですから、その約18倍の値段)! 過去に何度か備蓄倉庫に盗賊が侵入して話題になりましたが、2012年にも180万加ドル相当分のメープルシロップが盗まれています。そんなことからか、メープルシロップのドラム缶は内容物を表示せず無記名の真っ白な外観をしていて、備蓄倉庫の所在地は秘密で建物も目立たないように工夫されているという徹底した機密保持がされているそうです。
スタンピードでパンケーキにメープルシロップをたっぷりかけて食べる幸せを実感するとき、そして陳列棚に手を伸ばして日本へのお土産として買うとき、そんなシンジケートのことも想像してみてください。
風谷護
0 件のコメント:
コメントを投稿