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2019 October - 更年期障害かな?と思ったら

アルバータ大学内分泌代謝内科助教授
館野 透
はじめに
 私たちの身体は、様々なシステムによって保たれています。いろいろな臓器から分泌されるホルモンもその役割を担っています。ホルモンが多すぎる、もしくは足りないことで様々な症状が現れます。女性は年齢を重ねるにつれて、個人差はありますが、50歳前後で閉経を迎えます。更年期には卵巣からのホルモン、エストラジオールがかかわっています。日本では、更年期障害や月経異常は産婦人科医が診察していますが、カナダではファミリードクターが更年期障害や月経異常の窓口となり、診断、治療を行います。病状によっては産婦人科医、内分泌科医に紹介されることがあります。今回、更年期障害について、また更年期障害とカナダの気候の関連について紹介いたします。

更年期障害とは
 日本産科婦人科学会によると、「閉経の前後5年間を更年期といい、この期間に現れる多種多様な症状の中で、器質的変化に起因しない症状を更年期症状と呼び、これらの症状の中で日常生活に支障をきたす病態を更年期障害とする」と定義されています。「更年期症状、更年期障害の主たる原因は卵巣機能の低下であり、これに加齢に伴う身体的変化、精神・心理的な要因、社会文化的な環境因子などが複合的に影響することにより症状が発現すると考えられている」とされています。また1年間無月経であったときに、遡って閉経と診断されます。

更年期障害の症状
 症状の分類は大きく3つ。のぼせ、発汗、冷え、動悸、肩こりといった自律神経失調症状、イライラ、怒りっぽい、抑うつ気分などの精神的症状、腰痛、関節痛、食欲不振、乾燥、性行障害などのその他の症状が挙げられます。これらの症状は、ストレスや環境によって強くでることがあることが知られています。さらに人種間によって、みられる症状に違いがあることがわかってきました。例えば、肩こりは日本人に多くみられる症状ですが、ここカナダでは一般的でないようです。

更年期障害の診断
 現在、更年期障害の明確な診断基準はありませんが、更年期の女性が多種多様な症状を発症した際は更年期障害を疑います。ホルモンは閉経の約2年後まで大きく変動しますので、月経周期の変動で卵巣機能低下を推測します。注意する点として、他の病気が更年期障害と似た症状をきたすことがあります。例えば甲状腺機能亢進症(血液検査でTSH低値)では発汗、疲れ、月経不順を、甲状腺機能低下症(血液検査でTSH高値)では冷え、疲れ、月経不順などをきたすことがあります。
 さらに更年期障害によるうつ症状と、更年期に発症するうつ病の鑑別は非常に困難で、精神科医受診が必要になることがあります。また閉経後に、脂質異常症(高脂血症、Dyslipidemia)、動脈硬化(Atherosclerosis)、骨粗鬆症(Osteoporosis)を発症することがありますので、「更年期障害かな?」と思ったら一度ファミリードクターに相談されることをお薦めします。

更年期障害の治療
 治療としては、非薬物療法(生活習慣の改善、カウンセリング、心理療法)と薬物療法が挙げられます。生活習慣の改善は、動脈硬化や骨粗鬆症の早期対策としてだけでなく、肥満女性の更年期症状の改善に有効と言われています。
 薬物療法としては、更年期の自律神経失調症状や身体症状にホルモン補充療法が用いられることがあります。ホルモン補充療法は、不足しているエストロゲンを補充することによって症状を和らげるものです。子宮の有無によって、エストロゲンとプロゲステロン補充療法、エストロゲン単独療法と使い分けをします。また症状によっては、局所投与薬を用いることがあります。
 ホルモン補充療法は更年期症状の緩和に有効ですが、副作用に注意することがあります。50~59歳であれば稀ですが、ホルモン補充療法は静脈血栓症(venous thromboembolism, VT)、脳血管疾患のリスクファクターとなります。また長期の服薬により、乳がんの発症リスクが上がることが知られていますが、これは内服中止により消失します。また重度の肝疾患、乳がんの既往など、ホルモン補充療法ができない方、肥満、60歳以上など注意が必要な方がいらっしゃいますので、ホルモン補充療法開始前にはファミリードクターと相談の上、検討してください。
 また、精神症状やうつ症状に向精神薬・抗うつ薬が用いられることがあります。これらはカナダでは、ファミリードクターや精神科医によって処方されます。症状が強い場合や更年期障害の治療を行っても症状が改善しない場合は、ファミリードクターから産婦人科医や内分泌科医に紹介されることがあります。

更年期障害とカナダの気候
 更年期障害の症状には、卵巣機能低下だけではなく、ストレスや環境も関わっていると言われています。したがって、アルバータ州の広大な景色、美しい自然は、更年期症状の軽減につながっているかもしれません。一方でアルバータ州の長い冬は、更年期症状の悪化に関与しているかもしれません。日照時間と更年期症状の関係については不明です。家族や友人との楽しいひと時、美味しい食事はストレス解消につながります。またヨガやダンスなどの運動が更年期症状を和らげることがわかってきました。皆さんがアルバータ州の秋・冬を楽しく、また定期的な運動とともに過ごされることを願っています。

参考
日本産科婦人科学会
http://www.jsog.or.jp/modules/diseases/
index.php?content_id=14 
The Society of Obstetricians and Gynaecologists
of Canada
https://www.menopauseandu.ca/

カナダでファミリードクターを受診する際に、役立つかもしれないキーワード
閉経: menopause
月経: periods、cycles
月経不順: irregular periods/cycles
更年期症状: menopausal symptoms
更年期: perimenopause
エストラジオール: estradiol
卵胞刺激ホルモン: Follicule stimulating hormone(FSH)
甲状腺: thyroid gland
甲状腺機能亢進症: hyperthyroidism
甲状腺機能低下症: hypothyroidism
甲状腺刺激ホルモン: Thyroid stimulating hormone (TSH)




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