今年、待ちに待った夏季オリンピック・パラリンピックが開催される日本。2020年の目標として日本政府の打ち出した訪日観光客数は4,000万人、そして訪日観光客による消費額は8兆円!56年前の東京オリンピック時には存在しなかったスマートフォン、SNS、グーグルマップの普及で東京のみならず地方各地まで虎視眈々とビジネスチャンスを狙う人々は広がる。
そんな観光客の食事シーンに欠かせない存在が日本酒や日本茶(以下お酒、お茶)だ。日本への観光客が増える中、日本国外でのお酒とお茶に対する姿勢はどう変わってきているのか。カルガリーを拠点に日本酒と日本茶の輸入・販売をそれぞれ行う二社、酒神コーポレーションの鷲山泰博さんと上原敏樹さん、そして松風TEAの小野道子さんをお迎えし、1990年代から現在までの変遷について語っていただいた。
世界的な和食ブーム
鷲山:実は和食ブームってIT革命とリンクしていると感じています。流通システムは昔からあったけどインターネットと、個人が情報を幅広く発信できるSNSが広まり、世界中の情報を直接リアルタイムで得られるようになり、カナダでも4〜5年前から急激に特に高級志向の鮮魚、お酒、お茶の選択肢が増えてきました。
上原:25年前でもバンクーバーにはたくさんの日本食レストランはあったけど、ここ数年間でメニューは天婦羅、寿司、照焼きチキンのトライアングルから広がりを見せました。
小野:今はもうカナダの大きな都市なら、バンクーバーと微差。またトレンドも東京や大阪からカナダに届くまでのスピード差が以前は大分あったけど、最近は縮まったと思います。
鷲山:日本酒の普及は必ずしも「日本酒=和食ブーム」ではなくて、日本食に限らず日本の食材を用いる料理人が増えた事によるものだと感じます。そういったシェフ達が日本酒に興味を持ち始めたところが大きい。日本“食材”ブームと言ったほうがしっくりくる。
上原:加えて、最近カナダでは地ビールやナチュラルワインが増え、色んな味を追求する人が増えています。同じようなアプローチで日本酒を追及する。「寿司=酒」の概念は払拭されている傾向にありますね。
小野:お茶も然り。例えば、日本食ブームだからといって和菓子が爆発的に世界中に出回っているわけではない。あずきって必ずしも食べやすい物ではないですよね。日本食ブームの影響というよりも、日本に行く観光客が増えて美味しいお茶を日本で飲んだ経験のある人が増えたり、お土産に適していることだったり、もしくは健康志向でお茶を選ぶ人が増えたりといったことの影響の方が大きい。
鷲山:小野さんが仰ったように訪日観光客数の増加は日本ブームの要因です。日加関係に限ると、2018年にはカナダからの訪日観光客数が、日本からカナダへの観光客数を初めて上回りました。東京のカナダ大使館が訪日理由を調べた所、ほとんどが「食べ歩き」。みなさん旅行前に入念に何を食べるかリサーチし、日本で美食を堪能し、カナダに戻ってからもそれらを食べたいという欲求が生まれる。その需要に応える形でビジネスチャンスが生まれ、ラーメンや焼き鳥等の専門店がカルガリーでも増えてきているのではないかと感じています。
小野:日本への旅行で個人的な経験と感動を覚え、「なんちゃって日本食」が通じなくなり、本物を求め始めたということですね。
上原:あと日本酒に関していえば、「第5の味覚」と言われる「旨み」が理解された恩恵もありますね。日本酒は飲み物の中でも旨み、つまりアミノ酸成分を含みます。旨みは和食だけじゃなくて、トマトやマッシュルームにもたくさん含まれています。二つの異なる旨みを合わせる相乗効果で、日本酒が日本料理以外とも合うという事が理解されてきています。最近の日本酒は上質な酸味も楽しめますし、日本酒とワインの交差があってもいい。それがだんだん普通になってきている。
それぞれビジネスを始めてみて、予想と違ったこと
鷲山:酒神創業時は、飲食業界へのアプローチの仕方に試行錯誤しました。当初は和食とのペアリングを念頭に日本食レストランをメインにご提案していましたが、実際やってみたら和食以外とのペアリングも受け入れられ、良い意味で期待を裏切られた。
上原:僕らが信じてやってる事に間違いはなかったと感じたのは、酒神を始めて1年位の頃、世界のトップ100に選ばれたレストランのソムリエの方が、酒神の仕入れる日本酒が美味しいからと早速コースのペアリングに入れてくれた時でした。お酒全般に深い知識を持つ、品質管理の良いブティックワインストアもすぐにうちのお酒を受け入れてくれました。
小野:お茶の場合、一番ネックだったのは値段より苦味への敏感さ。嗜好品は苦味がないと嗜好品とは言わない。その苦味の丁度良さをわかってもらったり、心地よく飲んでもらえるようになるまでなかなか時間がかかりました。お湯の温度加減が上手くできないと苦くなりすぎ、アウト。和菓子や漬物のようなペアリング出来るものがあればお茶の苦味とバランスが取れるけど10年前はそんなになかった。
それから、カルガリ―の水の硬度。これはどうにもならない。硬水にもある程度合うお茶を選ぶのが私達の技量でしたね。カルガリーの水を日本に持って行って合うものを探しました。水が違うとお茶の生産者が嫌がります。「カルガリーの水は安全で美味しいので、この硬水でも合う美味しいお茶を!」というくらいの意気込みで茶畑を訪れて探しました。日本に比べ3倍の硬度があるカルガリーの水でも十分美味しい産地やお茶を選んでいます。
上原:僕らの第一のモットーなんですが、生産者側との密なる関係が一番大切。今年はどんな天気で、出来栄えはどうかなどを直接伺う。ラベルには見えないいろんなストーリーがある。僕らは最前線で酒造りの物語に感動しているから、それをうちのお酒を飲む方ともシェアしたい。
鷲山:特別な商品を扱う人は皆、自社商品に惚れ込み、また生産者の方の代弁者として商品を勧めています。日本酒への愛情と理解を深めるため、毎年酒蔵まで酒造りを手伝いに行ってます。毎冬、朝5時から30キロの米を担いでます。
景気に飲み込まれないレストランに見られる傾向
鷲山:飲食業界に関わらず、一般的にプロフェッショナルが在籍している店はどんなジャンルでも強い。日本酒に限らず取り扱っている商品全般に造詣があり勉強してるスタッフがいる店舗は流行っていると思います。あとは自分達が扱ってる商品を深く理解してるからこそ、うまくアレンジしてお客様に提供できる。景気が悪くなり、週3回の外食が週1回になりお客様がお金を出し渋る時代。でも外食に出ないわけではない。せっかく1回出かけるなら、満足行く、納得できるものにお金を使いたい。その1回に値する知識やサービスを提供するところに需要がある気がします。
上原:あとは価格的魅力だけじゃなくて、プロは付加価値の付け方が上手い。例えばペアリングが上手かったり、お酒にまつわる話が面白かったり。お客様の欲求するスイートスポットが分かってますよね。
小野:常に変わらない安定したサービスや品質で、顧客の欲求のスイートスポットを満たすんですね。
日本酒やお茶のブランド戦略
上原:僕はワインを味わうように日本酒を味わって欲しい。日本酒には様々な酒器があり、お猪口とお銚子で隣に座ってる人に注ぎ合う文化が日本。でも国によってはお猪口にショットグラスのような印象を持ち、マイナスのイメージになることがあります。日本酒は旨みはもちろんフルーツ系の香りも堪能できるので、小さなお猪口ではなくワイングラスで飲むことによって、香りも広がるし、一気飲みがなくなる。ワイングラスからまず飲んでもらう。それが我々が始めた時からの戦略ですね。
日本酒って、アカデミー賞でいう助演賞なんですよ。お酒っていうのは食べるものを次のステップにエレベ―トしてくれる。食べ物と一緒に良いハーモニーを奏でてくれる。ワイン好きにもここは共通するんです。
小野:お茶は何百年も飲まれているものなので、あえて新しいものを紹介しているわけではない。忙しい日々、人がほっとしたいと思った時にコーヒーや紅茶だけじゃなくて日本茶も良いなという一種の選択肢。2020年東京オリンピックを機に、本物志向になり、ものすごくクラッシックでシンプルなものに帰っていくのかもしれません。
2019年12月に日本に帰った時感じたのですが、東京には魔物がいるようでしたね。東京オリンピックを念頭に置いていないマーケティングがない。グーグルやSNSを駆使して世界中から誰もが、とってもローカルで行きにくいような場所まで情報を入手し訪れる可能性がある。大イベントがあった後どうなるのか?良い意味でも悪い意味でも、ものすごい事になるんじゃないかと思います。2020年の夏以降にフォローアップが必要ですね!
表紙撮影協力:Zen 8 grill
そんな観光客の食事シーンに欠かせない存在が日本酒や日本茶(以下お酒、お茶)だ。日本への観光客が増える中、日本国外でのお酒とお茶に対する姿勢はどう変わってきているのか。カルガリーを拠点に日本酒と日本茶の輸入・販売をそれぞれ行う二社、酒神コーポレーションの鷲山泰博さんと上原敏樹さん、そして松風TEAの小野道子さんをお迎えし、1990年代から現在までの変遷について語っていただいた。
世界的な和食ブーム
鷲山:実は和食ブームってIT革命とリンクしていると感じています。流通システムは昔からあったけどインターネットと、個人が情報を幅広く発信できるSNSが広まり、世界中の情報を直接リアルタイムで得られるようになり、カナダでも4〜5年前から急激に特に高級志向の鮮魚、お酒、お茶の選択肢が増えてきました。
上原:25年前でもバンクーバーにはたくさんの日本食レストランはあったけど、ここ数年間でメニューは天婦羅、寿司、照焼きチキンのトライアングルから広がりを見せました。
小野:今はもうカナダの大きな都市なら、バンクーバーと微差。またトレンドも東京や大阪からカナダに届くまでのスピード差が以前は大分あったけど、最近は縮まったと思います。
鷲山:日本酒の普及は必ずしも「日本酒=和食ブーム」ではなくて、日本食に限らず日本の食材を用いる料理人が増えた事によるものだと感じます。そういったシェフ達が日本酒に興味を持ち始めたところが大きい。日本“食材”ブームと言ったほうがしっくりくる。
上原:加えて、最近カナダでは地ビールやナチュラルワインが増え、色んな味を追求する人が増えています。同じようなアプローチで日本酒を追及する。「寿司=酒」の概念は払拭されている傾向にありますね。
小野:お茶も然り。例えば、日本食ブームだからといって和菓子が爆発的に世界中に出回っているわけではない。あずきって必ずしも食べやすい物ではないですよね。日本食ブームの影響というよりも、日本に行く観光客が増えて美味しいお茶を日本で飲んだ経験のある人が増えたり、お土産に適していることだったり、もしくは健康志向でお茶を選ぶ人が増えたりといったことの影響の方が大きい。
鷲山:小野さんが仰ったように訪日観光客数の増加は日本ブームの要因です。日加関係に限ると、2018年にはカナダからの訪日観光客数が、日本からカナダへの観光客数を初めて上回りました。東京のカナダ大使館が訪日理由を調べた所、ほとんどが「食べ歩き」。みなさん旅行前に入念に何を食べるかリサーチし、日本で美食を堪能し、カナダに戻ってからもそれらを食べたいという欲求が生まれる。その需要に応える形でビジネスチャンスが生まれ、ラーメンや焼き鳥等の専門店がカルガリーでも増えてきているのではないかと感じています。
小野:日本への旅行で個人的な経験と感動を覚え、「なんちゃって日本食」が通じなくなり、本物を求め始めたということですね。
上原:あと日本酒に関していえば、「第5の味覚」と言われる「旨み」が理解された恩恵もありますね。日本酒は飲み物の中でも旨み、つまりアミノ酸成分を含みます。旨みは和食だけじゃなくて、トマトやマッシュルームにもたくさん含まれています。二つの異なる旨みを合わせる相乗効果で、日本酒が日本料理以外とも合うという事が理解されてきています。最近の日本酒は上質な酸味も楽しめますし、日本酒とワインの交差があってもいい。それがだんだん普通になってきている。
それぞれビジネスを始めてみて、予想と違ったこと
鷲山:酒神創業時は、飲食業界へのアプローチの仕方に試行錯誤しました。当初は和食とのペアリングを念頭に日本食レストランをメインにご提案していましたが、実際やってみたら和食以外とのペアリングも受け入れられ、良い意味で期待を裏切られた。
上原:僕らが信じてやってる事に間違いはなかったと感じたのは、酒神を始めて1年位の頃、世界のトップ100に選ばれたレストランのソムリエの方が、酒神の仕入れる日本酒が美味しいからと早速コースのペアリングに入れてくれた時でした。お酒全般に深い知識を持つ、品質管理の良いブティックワインストアもすぐにうちのお酒を受け入れてくれました。
小野:お茶の場合、一番ネックだったのは値段より苦味への敏感さ。嗜好品は苦味がないと嗜好品とは言わない。その苦味の丁度良さをわかってもらったり、心地よく飲んでもらえるようになるまでなかなか時間がかかりました。お湯の温度加減が上手くできないと苦くなりすぎ、アウト。和菓子や漬物のようなペアリング出来るものがあればお茶の苦味とバランスが取れるけど10年前はそんなになかった。
それから、カルガリ―の水の硬度。これはどうにもならない。硬水にもある程度合うお茶を選ぶのが私達の技量でしたね。カルガリーの水を日本に持って行って合うものを探しました。水が違うとお茶の生産者が嫌がります。「カルガリーの水は安全で美味しいので、この硬水でも合う美味しいお茶を!」というくらいの意気込みで茶畑を訪れて探しました。日本に比べ3倍の硬度があるカルガリーの水でも十分美味しい産地やお茶を選んでいます。
上原:僕らの第一のモットーなんですが、生産者側との密なる関係が一番大切。今年はどんな天気で、出来栄えはどうかなどを直接伺う。ラベルには見えないいろんなストーリーがある。僕らは最前線で酒造りの物語に感動しているから、それをうちのお酒を飲む方ともシェアしたい。
鷲山:特別な商品を扱う人は皆、自社商品に惚れ込み、また生産者の方の代弁者として商品を勧めています。日本酒への愛情と理解を深めるため、毎年酒蔵まで酒造りを手伝いに行ってます。毎冬、朝5時から30キロの米を担いでます。
景気に飲み込まれないレストランに見られる傾向
鷲山:飲食業界に関わらず、一般的にプロフェッショナルが在籍している店はどんなジャンルでも強い。日本酒に限らず取り扱っている商品全般に造詣があり勉強してるスタッフがいる店舗は流行っていると思います。あとは自分達が扱ってる商品を深く理解してるからこそ、うまくアレンジしてお客様に提供できる。景気が悪くなり、週3回の外食が週1回になりお客様がお金を出し渋る時代。でも外食に出ないわけではない。せっかく1回出かけるなら、満足行く、納得できるものにお金を使いたい。その1回に値する知識やサービスを提供するところに需要がある気がします。
上原:あとは価格的魅力だけじゃなくて、プロは付加価値の付け方が上手い。例えばペアリングが上手かったり、お酒にまつわる話が面白かったり。お客様の欲求するスイートスポットが分かってますよね。
小野:常に変わらない安定したサービスや品質で、顧客の欲求のスイートスポットを満たすんですね。
日本酒やお茶のブランド戦略
上原:僕はワインを味わうように日本酒を味わって欲しい。日本酒には様々な酒器があり、お猪口とお銚子で隣に座ってる人に注ぎ合う文化が日本。でも国によってはお猪口にショットグラスのような印象を持ち、マイナスのイメージになることがあります。日本酒は旨みはもちろんフルーツ系の香りも堪能できるので、小さなお猪口ではなくワイングラスで飲むことによって、香りも広がるし、一気飲みがなくなる。ワイングラスからまず飲んでもらう。それが我々が始めた時からの戦略ですね。
日本酒って、アカデミー賞でいう助演賞なんですよ。お酒っていうのは食べるものを次のステップにエレベ―トしてくれる。食べ物と一緒に良いハーモニーを奏でてくれる。ワイン好きにもここは共通するんです。
小野:お茶は何百年も飲まれているものなので、あえて新しいものを紹介しているわけではない。忙しい日々、人がほっとしたいと思った時にコーヒーや紅茶だけじゃなくて日本茶も良いなという一種の選択肢。2020年東京オリンピックを機に、本物志向になり、ものすごくクラッシックでシンプルなものに帰っていくのかもしれません。
2019年12月に日本に帰った時感じたのですが、東京には魔物がいるようでしたね。東京オリンピックを念頭に置いていないマーケティングがない。グーグルやSNSを駆使して世界中から誰もが、とってもローカルで行きにくいような場所まで情報を入手し訪れる可能性がある。大イベントがあった後どうなるのか?良い意味でも悪い意味でも、ものすごい事になるんじゃないかと思います。2020年の夏以降にフォローアップが必要ですね!
表紙撮影協力:Zen 8 grill
0 件のコメント:
コメントを投稿