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2017 July - 要注意!日本食ブームとアニサキス症

文:公益社団法人地域医療振興協会上野原市立病院 消化器内科医師 荒井俊夫

 アニサキス症をご存知でしょうか。アニサキス症は寄生虫の一種であるアニサキス幼虫によって起こされる寄生虫症です。原因はアニサキス幼虫が寄生しているサーモン、サバ、タラ、イカなどの生鮮海鮮魚類を生(非加熱または不十分な冷凍状態)で食べることで発症します。典型的な症状は食後数時間で激しい悪心、みぞおちを中心とした耐え難い腹痛です。魚介類を生で食べる習慣のある日本においては消化器内科領域の疾患として比較的多発し、その件数は年間約7,100例と推計されています。これは国内の寄生虫疾患では最多です。また、激しい腹部症状を起こしますが、アニサキス症単独での死亡報告例はありません。一方、北米では生魚を食べる習慣がないため、これまで文献上年間約60 例しか報告されていません。


【アニサキス幼虫とは】
 アニサキス幼虫は体長約3cm、幅約1mm位の白色調の線虫でサーモン、サバ、タラ、イカなど魚介類の内臓にとぐろを巻いた状態で寄生しています。その寄生した魚介類をイルカやクジラが食べ、その内臓の中で成虫になります。成虫は体内で産卵し、その卵はイルカやクジラの糞と一緒に海中に排出され、今度はそれをオキアミと呼ばれるサーモンなどの餌になるプランクトンが食べ、小さな幼虫に育ちます。つまり、海洋中で餌として取り込まれこれら宿主に寄生しながら宿主内で成長していくユニークな生き方をしています。人は宿主ではありません。そのため人体に侵入した場合、アニサキス幼虫は体内から脱出しようと暴れて胃壁に侵入します。それによって腹痛などの激しい症状を引き起こします。アニサキス症の激しい痛みは、寄生虫が胃壁に侵入したことで起こる、一種のアレルギー反応であると言われています。

【アルバータ州での報告例】
 前述の通り、北米での報告例はこれまでは希少でした。しかし近年の和食、寿司ブームによって患者数の増加が懸念されています。アルバータ州においては2014年に50歳の男性がカルガリー市内のスーパーで購入した生のサーモンを用いて自宅で寿司を作り、それを食してから1時間後に39度の発熱と腹痛を発症し救急外来を受診し、胃カメラで摘出され治癒された症例があります。これはアルバータ州における第一例報告になります。

【予防法は】
 この寄生虫に関する最も多い誤解としては、アルコール、生姜、お酢等で死滅するというものですが、これらには殺虫効果がありません。実験的に証明されている完全な予防法は60℃以上で1分間の加熱、または零下20℃以下で24時間以上の冷凍のみです。カナダにおける生鮮魚の取り扱い法は州によって異なりますが、アルバータ州では養殖魚とマグロ以外は冷凍が義務付けられています。そのため、レストランで提供されるサーモン寿司やスーパーで購入したサーモンがアニサキスで汚染されていることは非常に稀と考えられます。それでも前述のような事例もありますので、生で食する際は注意が必要だと言えます。また、日本やイタリアではアニサキスに汚染されたマグロによる発症報告例もあり、マグロだから絶対に安全とは言い切れません。

【アニサキス症が疑われたら】
 アニサキス症の治療法は内視鏡(胃カメラ)による虫体の摘出になります。アニサキス症による食中毒が疑われた場合は、救急外来で担当医に生で魚を摂取したことを正確に伝えましょう。

【刺身を作る場合】
 通常スーパーで販売しているサーモンの場合、寄生している可能性は低いですが、それでも注意は必要です。必ず目で寄生していないか確認しましょう。また海で直接釣ってきた天然魚を食する機会がある場合、これらの魚にはアニサキスが寄生している可能性がありますので加熱または冷凍処理が第一の予防法となります。それでもどうしても生で食べたい場合、完全な予防法ではありませんが、明るい場所にて目視で完全に除去する、内臓や内臓付近の部位は使用しない、また、アニサキス幼虫は魚が死んだ後、内臓から筋肉に移行する性質があるので、魚をしめたらできるだけ早く内臓を除くといった方法があげられます。






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