JAPANとALBERTAから、JAPANAB(じゃぱなび)と名付けられた無料タウン情報誌。
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1月1日、4月1日、7月1日、10月1日に発行される季刊誌です!

2017 October - BC州のLNGプロジェクト中止でアルバータ州はどうなる?

 前号で隣のBC州の選挙がアルバータ州在住の皆さんの生活にも影響が及ぶのではないか?という話しをしました。今月号はその続きになります。この選挙の結果は歴史的な僅差で、政権交代が決まるまで、選挙の集計のやり直し、選出されると政党から籍を外れる州議会議長をどちらがだすか、など政治の舞台では様々な駆け引きが行なわれていました。
 そして7月18日にNDPはGreenと連立して政権の座に就きました。その7日後の25日にマレーシアの国営石油ガス会社PETRONASが主導して進めてきたPacific NorthWest LNGというBC州のPrince Rupertからアジア市場にLNG(液化天然ガス)を輸出しようというプロジェクトの中止が発表されて、BC州の地元経済界で衝撃的な出来事として暫く議論を招きました。PETRONASは外国企業ですから、先のカナダ連邦政府或いはBC州政府の政権交代が事業中止の理由であるなどと言うはずもないのですが、地元紙や全国紙の報道では、NDPとGreenの連立政権の成立から1週間後に事業中止が発表されたことで、様々な憶測が語られていました。NDPもGreenも選挙期間中はBC州における資源開発に消極的な態度でいましたから、そういう観測が生じても不思議はないのですが、事業者の発表ではBC州でLNG事業を進めても経済性を確保できる環境ではなかったというのが理由となっています。
 この事業中止で影響を受けるのは誰でしょう?先ずは地元のPrince RupertやPort Edwardという自治体です。事業が実現すれば、そこに雇用が生まれるだけでなく、プラントの固定資産税が入ってくると期待されていました。飲食店やホテル事業などの地元経済への影響も期待されていました。オイルサンド開発事業が進みFort McMurrayやLac LaBicheでの住宅開発が活況を呈し、不動産価格が上がり、お金持ちになった地元の人が地元経済を潤したことはカナダ全国で現代のGold rushの再現であるとして知られています。その一攫千金の機会が再現されることを期待して、Prince Rupertでは近年、空き家を買い取って改装して売却しようと目論む不動産投資が盛んになっていましたが、これらは空振りとなりました。
 地元に居住する先住民族にも大きな影響があります。LNG事業が始まることを条件に州政府から事業用の土地の付与、居留地周辺の道路整備、教育施設の拡充などの社会投資が計画されていましたし、LNG事業者やパイプライン会社からも様々な補償や就業訓練の約束がされていたので、これもなくなりました。
 このように、事業中止により当てが外れて、がっかりした人たちは沢山います。期待外れが目に見える影響だけでなく、実はLNG事業の中止はアルバータ州にも大きな余波をもたらすことになります。
 液化されて輸出されるはずだった天然ガスがアルバータ州に流れ込んでくるのです。BC州のロッキー山脈の東側の地帯には豊富なガス資源が眠っています。BC州の北東部の辺りはPeace地域ともいわれているのですが、ここではシェールガス開発が進み、近年、生産量が増えています。Pacific Northwest LNGはこの地域で生産された天然ガスを液化してアジアの顧客に輸出して販売する構想でした。これが中止となりましたので、そこにある豊富な天然ガスは内陸のマーケットにパイプラインを経て搬送されることになります。
 Prince RupertにLNGプラントが建設されれば2.2bcf/d(billion cubic feet per day)という多量の天然ガスをLNG用に生産する計画でした。天然ガスの流通量の規模はBC州で大体5.0bcf/d、アルバータ州で10.0bcf/d程度ですから、輸出用に考えられていた天然ガスの量は市場規模に比べると、かなり大きなものになるといえます。
 こうした規模の天然ガスがBC州で生産されてアルバータ州に流れてくるとどうなるか?市場には供給される天然ガスが増えますから、需要が増えない限り値段は上がらなくなります。下のグラフはAlberta Energy Regulatorが今年の3月に改訂した天然ガスの価格予想です。Alberta Energy Regulatorの分析ではアメリカからメキシコへのパイプラインによる天然ガス輸出とLNG輸出の本格化によりアメリカの天然ガス指標価格であるHenry Hub価格は2017年以降も増加傾向にあるとしています。アルバータ州の天然ガス価格はAECO-C Hubの価格で把握されていますが、2016年に価格が下がっています。皆さんは昨年Fort McMurrayで大規模な火災が発生したことを覚えていると思います。火災によりオイルサンド操業が停止し、そこで使用している燃料用の天然ガスの消費が減ったことと、使われなかった天然ガスが地下貯蔵されたことで価格が下がっているのです。この分析ではオイルサンドの開発は画期的には増えないものの天然ガス需要の中核であり、天然ガスによる電力発電の増加も期待するとして、AECO–C Hubの価格も2017年以降は上昇すると予想しているのです。
 Alberta Energy Regulatorは2017年のAECO–C Hubの平均価格を2.99C$/GJと予想していますが、これは当るでしょうか?勿論、原油やガス価格の予想は難しいもので、それができれば大儲けも夢ではありません。
 天然ガス価格というのはアルバータ州政府にとってみるとロイヤルティ収入に直接影響します。また州内の石油ガス産業の活動状況をも左右します。石油ガス産業の活動が盛んになれば、雇用も増えますし、レストランや商店での個人や会社の消費も増えます。そして法人税収入が増えることになりますから、地元経済や州財政の様々な分野に好影響が生じます。
 上掲の天然ガス価格予想にはまだPacific NorthWest LNGの中止によりBC州から多量の天然ガスがアルバータ州に流入してくる場合の影響はまだ織り込まれていません。その影響がじわじわと健在かしたとき、この天然ガス価格はどう動くのでしょうか?アルバータ州にも天然ガス価格が上がることで笑いだす人、そしてがっかりする人がいるはずなので、それを注目していきましょう。

風谷護
カナダ在住は20年を超えるエネルギー産業界のインサイダー。
趣味は読書とワイン。




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