JAPANとALBERTAから、JAPANAB(じゃぱなび)と名付けられた無料タウン情報誌。
アルバータ州在住の輝く日本人に焦点を当て、面白く、役立つ情報を発信中。
季刊誌「Japanab」は、2022年1月発行の「Japanab January 3, 2022 Vol.39」より、下記の通り年2回刊誌に刊行サイクルを変更いたします。
引き続き変わらぬご支援、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。
• 2021年10月号Vol.38(10月1日発刊)にて季刊誌最終号
• 2022年1号Vol.39(1月3日発刊予定)にて年2回刊誌としてスタート
• 以降7月3日と1月3日に刊行。

2019 January - ノトリー首相、エネルギー産業のピンチを救えるか?

 昨年10月上旬にブリティッシュコロンビア(BC)州で天然ガスのパイプラインが爆発炎上しました。テロ攻撃など犯罪性のある事件ではないことが連邦警察の捜査で明らかになりましたが、事故原因についてパイプライン会社は12月上旬現在まだ何も発表していません。この事故により、地下に敷設された太さの異なる二本のパイプの太い方が送ガス停止となりました。地中の鉄管からガスが漏れ出して着火することは稀ですが、今回は炎上した現場、現場がプリンスジョージ郊外だったことから多くの目撃者がSNSを通じてその映像を拡散して話題になりました。
 この送ガス停止でBC州南部は勿論、米国ワシントン州とオレゴン州でもガス供給が不十分になりました。バンクーバーでは教育機関や図書館など公共施設の暖房設定温度を15°Cに下げたり、ディーゼルを使う予備の暖房装置の利用を推奨したりと、省ガス措置を施してガス不足をしのぐ耐久生活を進めました。ガス燃料で走るゴミ収集車を導入している自治体では定期のゴミ収集ができなくなったり、天然ガスを燃料に操業する製油所の生産低下が予想されてガソリンやディーゼルの値段が上がったり、極めつけには天然ガスの暖房を使う温室栽培農家のしなびたピーマンやトマトの映像が流れたり、まさに「風がふけば桶屋がもうかる」ということわざを彷彿させる状況が相次ぎました。天然ガスは日常生活に深く関わっているのです。今回の事故による流通制限が完全に解消するには春までかかりそうです。

先行き不透明感の拭えないエネルギー産業
 ところで、カナダの石油・ガス会社は毎年9~10月に次年度の作業計画と予算案を組みます。次年度の石油・ガス価格の見通しに基づいて収入を算出し、それに見合った支出を考えるというのが予算の組み方なので、この時期には通常以上に原油やガス価格に神経質になります。そうやって頭を痛めている時に価格が低下したり、パイプライン事故など製品の搬送を制約するような事態に直面したりすると、会社の収入低下がとても心配になり、次年度の支出を控える気持ちが強まるという連鎖反応を呼ぶことになります。2018年の秋はまさにそういう状況でした。
 さて、アルバータ州の原油生産の主力はオイルサンド事業から供給される重質油です。この重質油を含む北米で生産されるあらゆる種類の原油の価格は、WTI(West Texas Intermediate)という中質油の値段との比較で決まります。現在そのWTIと重質油との価格差が拡大し、アルバータ産の主力原油が安くなっているため、多くのオイルサンド事業者が危機感を募らせています。
この価格差拡大の原因はいくつも考えられますし、これを議論し始めるとジャパナビ一冊まるまるこの特集記事で占拠してしまうので詳しく書きませんが、最も気になる要因は生産地から市場に原油を供給するパイプラインが不足していていることです。生産しても市場に送り出せないのでアルバータ州に原油が滞留してしまい、いつでもふんだんにあるため、買い手は焦って高値をつけて買い集める必要がなくなり、結果的に値段が下がってしまうのです。
 このような状況では会社は来年度の支出について慎重になります。その結果生産が削られ、現場で作業を請け負う会社の業績が悪化し、請負業者は仕事が減れば作業員を減らします。作業員が失職すれば、その家の家計は成り立たなくなります。それだけに留まらず、遠隔地の作業現場までの移動で使っていた飛行機やバスのチケットが売れなくなり、宿舎やレストランなどのサービス産業も下火になります。このように、原油価格の低下がアルバータ州民の日常生活のあちこちで連鎖反応を引き起こすのです。

ノトリー首相の炉辺談話
 昨年12月2日、アルバータ州のレイチェル・ノトリー首相が「アルバータ州として最も難しい決定のひとつを行なう」と前置きして、州内で石油生産を行う大手に原油生産量の削減を命ずることを発表しました。それにより供給過剰を抑制して、価格の更なる低下を回避しようというのですが、州政府が生産という企業活動に介入して、減産を命ずるのは異常なことです。
 オイルサンド事業者がアルバータ州エネルギー大臣より受取る鉱区証書には、政府が必要と認めた場合には鉱業権を持つ者に一定量の生産を命ずることができると緊急時の非常大権が記載されています。これはエネルギー危機など極度の原油不足への対応策として用意された州政府の「伝家の宝刀」とされてきましたが、今回の減産命令で州政府は原油不足とは正反対の異常事態への対応のために「伝家の宝刀」を抜いて見せました。
 ノトリー首相が「アルバータ州として最も難しい決定のひとつを行なう」と発言した際に、私は「炉辺談話(Fireside chat)」のスタイルを感じ取りました。炉辺談話とは、1929年から米国が大恐慌に突入し、国民が失意を感じていた時にルーズベルト大統領がラジオを通して直接国民に語りかけたことを発端としています。当時はまだ家々に暖炉が残っており、ラジオから流れる大統領の肉声を暖炉の火を見つめながら聞いた米国人が不況を乗り越え、そしてその次にやって来る世界大戦に立ち向かう強さを取り戻したのです。
 ノトリー首相は、現在のアルバータ産原油の価格低迷をこのような国難と同じレベルで受け止めていることを州民に示し、その対応として原油減産を命ずることへの理解を求めたのでした。「炉辺談話」を通じて世論を喚起し、国難に立ち向かう姿を示したルーズベルト大統領は、米国史において4期にわたり大統領を務めた唯一の人物です。ノトリー首相の「伝家の宝刀」はどんな切れ味をみせ、われわれの生活を守ってくれるのでしょうか。今年はアルバータ州議会選挙の年であり、州民が注目していることは間違いありません。

風谷護
カナダ在住は20年を超える
エネルギー産業界のインサイダー
趣味は読書とワイン




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