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2021 July - 知っておきたいカナダの法律 離婚法の改正

文/東谷陽子 Barr LLP 弁護士

 1985年に施行されたカナダの離婚法(DivorceAct)が今年3月1日に大幅に改正されました。今回はその改正内容をご説明したいと思います。

言葉遣いの変更
 言葉というものはその時々の社会を反映し、時代と共に変化するものです。離婚法も例に漏れず、今まで使われていた名称や言い回しが今回の改正で変わりました。例えば「Custody(親権)」という言葉は、子供が親の所有物であるかに聞こえるという批判があったことを考慮し、代わりに「子供と過ごす時間(Parenting Time)」と、「子供について重要なこと(例えば健康、教育、文化、言語、宗教、課外活動など)を決める責任(Decision- Making Responsibility)」の二つに置き換えられました。もっともこの点に関しては、アルバータ州の家族法(Family Law Act、2003年施行)をはじめ、各州の法律が既に導入していた言葉遣いなので、国の法律がようやく新しい概念に追いついた形です。 また離婚手続きをする上で、子供にとって最善な方法を選ぶ義務が親にあること、そして何が「子供にとって最善」なのかの判断材料も明記されました。常識範囲内と思われる方もいるかもしれませんが、子供を親の紛争に巻き込んではならないことも盛り込まれ、それをできない親もいることを踏まえた内容になっています。

「Maximum Contact」という概念の排除
 旧法では裁判官が親権を決める際、子供にとって最善な措置をとることと同時に「Maximum Contact(子供の親権をとりたい親と子供との時間を最大にすること)」の概念を採用していました。そのため両方の親が子供の親権を主張した場合、その概念に基づいて「Shared Custody(両親とも子供とほぼ半分ずつ時間を過ごすこと)」が命ぜられることが多くありました。しかし新法ではこの概念がなくなり、「子供にとってどのように親と過ごすのが最善か」という一点だけを考慮することが裁判官に求められています。そのため、両方の親が子供の親権を主張した場合でも Shared Custodyになる確率は今までより減ったと言えるでしょう。この点は重要です。

子供の引越し
 新法では子供を連れて引っ越す場合、もう片親に引越しの通知を行ない、先方が60日間以内に反対の意思表示をしなければ、自動的に合意したとみなすことができるようになりました。以前は引越しを希望する親が「子供を連れて引越ししてもよい」という裁判命令を取る必要がありましたが、これがなくなりました。また、以前は引越しを希望する親が「どうしてその引越しが子供にとってよいことなのか」を裁判所で証明する必要がありましたが、今回の改正で、もし片親が主に子供の面倒を見ていて、その親が子供と一緒に引越したい場合、もう片方の親がる親がどうしてその引越しが子供にとってよいことなのか証明しなければいけません。これも大きな違いです。

子供が連れ去られた場合の裁判権
 旧法は、もし片親がもう片親の同意もしくは裁判命令なしに子供を連れて別の市や州に引越した場合、どこの土地の法律に従って裁判が行われるのかが曖昧でした。もし夫婦が別の市や州に住んでいる場合は、子供の住んでいる土地が裁判権を持つのは旧法も新法も同じです。しかし旧法では、片親が勝手に子供の住所を変えてしまった場合、引越し先に裁判権があるとみなさる場合もあり、その際は子供を連れ去られた親は引越し先で子供の返還の裁判命令を取らなくてはならないという理不尽な状況が生じました。今回の改正で、もし片親が今まで住んでいた場所から適正な手続きを踏まずに子供を連れて引越した場合、今まで子供が住んでいた場所で子供の返還や離婚手続きを始められると明記されました。
 ただし離婚法はあくまでもカナダ国内における引越しに適用されるもので、カナダから日本など国境を超えた引越しに関しては、引き続きハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)が適用されます。このため、例えば離婚法の「引越しの意思を伝えて60日間以内に反対がななければ合意したとみなされる」というのは、カナダ国内の引越しだけに当てはまると理解してください。もし子供を連れて日本に引越すのであれば、今まで通りもう片親から同意書か、引越しを容認する裁判命令を取る必要があります。

付け加えされた事項
 新法には、旧法が触れていなかった家庭内暴力の定義が加わりました。なお離婚手続き中、または離婚後に祖父母が孫との面会を訴えることができるようになりました。もっともアルバータ州では、孫との面会は州の家族法によって訴えることができたので、大きな変化ではありません。
 この他、離婚手続きの開始や終了書類の書式も変わり、今までよりも当事者の署名が必要な部分が増えるなど、手続き全体がより煩雑になりました。他にも変化は詳細に至り、しばらくは裁判所も弁護士も新しい法律に慣れるまで時間がかかりそうです。





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